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【自由研究】携帯電話の通信料金は「高い」のか−家計における通信費負担の視点からの考察−

携帯電話の通信料金は「高い」のか。家計における通信費負担の視点からの考察をまとめました。


15秒で分かる本稿のポイント

  • この10年間で携帯電話通信料金は「衣」(衣料品)と同じくらいの負担になっている
  • 家計支出における携帯電話通信料金は10年間で約4割ほど高くなっている
  • 携帯電話通信料金は「高い」、されど「高い」「低い」は個々人の効用次第でもある

目次は以下の通りです。いつも通り話が長くなってしまっているので、結論ファーストの方は、Conclusionパートから先にご確認ください。

 

 

 

【Introduction】我が国の携帯電話料金は「高い」のか?

○再び槍玉に挙がった携帯料金の値下げ

 菅新内閣が発足し、就任後初となる記者会見の中で、携帯電話料金の価格引き下げが言及されました。携帯電話等の電波行政を所管する総務省の新たな大臣となった武田総務大臣菅総理に続くコメントを発表し、世界的に見て高い水準の我が国の携帯電話通信料金の値下げに言及しています。

www3.nhk.or.jp

k-tai.watch.impress.co.jp

「国民の財産の電波の提供を受け、携帯電話の大手3社が9割の寡占状態を長年にわたり維持して、世界でも高い料金で、20パーセントもの営業利益を上げ続けている事実」−菅新総理(上記ケータイWatchの記事より)

「もはや今、携帯電話は贅沢品ではなく、国民の命に関わる、大変重要な通信手段となっている。ほとんどの国民、全てと言ってもいいくらいの方々が使用する時代において、国民が納得する料金なのかどうか。国際的に見て、日本の料金体系はどうなのか。これは見直す必要があると私は思っている。」
−武田総務大臣(上記ケータイWatchの記事より)

  菅総理官房長官時代の2018年にも「4割値下げ」発言を行なっており、携帯電話通信料金の値下げに強い思いを持っていると推察されます。これは、総務省から割り当てられる公共の電波を利用して通信サービスを提供している携帯電話通信会社、MNO(Mobile Network Operator:自社で通信回線設備を持ち、サービス提供する事業者)いわゆる「通信キャリア」がドコモ・auソフトバンクの大手3社+新規の楽天モバイル1社という寡占状態となっており、携帯通信サービス市場における市場競争がうまく働いていない点に問題意識を持っているのかと思います。
(MNO以外に、MVNOが登場し格安通信サービスを提供していますが、MVNO電波利用料をMNOから借り受けてサービス提供しているため、MNOには使用料を支払うため、 結局はMNOも潤う仕組みになります。)

MVNO登場以前以後でのMNO各社の収益構造の比較をしたら面白そうですね。

 

○諸外国との比較はあまり意味がないのでは?

 さて、我が国の携帯電話通信料金に話を戻しますと、我が国の携帯電話通信料金について、通信サービスがもはやライフラインとして生活の重要なインフラとなっている状況を踏まえて、武田総務大臣は「国際的に見て日本の料金体系はどうなのか。見直す必要がある」と述べており、通信サービス料金の国際比較から価格を値下げすべきであると考えているようです(文脈的に)。
 しかし、諸外国と比較することは、我が国の通信サービス料金の値下げに対して、果たしてそれほど大きな説得力をもつでしょうか
 日本における携帯サービスと諸外国の携帯サービスの商慣行(サービス体系や割引制度など)は大いに異なっています。また、国ごとに物価水準が異なっています。額面上の通信料金が安い国であっても、他の物価と比べれば、相対的に見れば、日本と同様あるいは高くなる可能性もあります。隣の国が安いからといって、何も考えずに同水準に価格を引き下げれば、現在の携帯電話通信サービスの質の低下を招く恐れもあります。

(*諸外国の携帯電話会社の提供サービスを比較分析したら面白そうですね。単なる土管屋さん(=インフラだけ提供)なのか、コンビニ(音楽・動画・ショッピング等のさまざまなサービスも手軽に提供)なのか。もちろん、国ごとの電波行政も考慮する必要があります。)

 

【Question】生活目線で携帯電話通信料金の負担を見てみよう

 そこで本稿では、国際比較ではなく、我々の生活の目線から、携帯電話通信料金は果たして「高い」のか?という点を明らかにしたいと思います。
 生活目線での「高い」「安い」という判断をするために、感覚的にわかりやすい方法の1つとして、家計支出に占める携帯電話通信料金がどれくらいの負担となっているのかを見ていきたいと思います。
 生活に欠かせない「衣」「食」「住」に、通信という観点を加え「それぞれの世帯における家計支出として、衣(衣料品)・食(食料品)・住(住居・水道光熱費)・通信(携帯電話)にどれくらいの金額を負担しているのか?」を調査します。
 また、近年、携帯電話通信料金が「高い」と言われるようになった背景を知るために、「10年間で携帯電話通信料金にかかる支出がどのように推移しているのか?」を調査してみたいと思います。

本稿での問いは以下の2つです。

Q1. 各家庭で携帯電話通信料金はどれくらいの負担となっているのか?
Q2. 10年間で携帯電話通信料金にかかる支出がどのように推移しているのか?

 


 

 

【Methodology&Data】10年分の家計調査データから携帯電話料金への平均支出を見る

 今回の調査で用いるデータは、総務省が毎年実施している「家計調査」のデータを利用します。今回は全体の傾向を見るため、総世帯の平均的な年間支出金額を扱っています。
 単年だけを見ても、一時点の支出負担しか見れませんので、10年分のデータを調査し、何も考えずに単純にグラフ化してみます。
 元データとしての家計調査データは居住地や世帯所得階層等の属性ごとに詳細なデータも公開されていますので、詳細が気になる方はオリジナルデータをご確認ください。

統計局ホームページ/家計調査

 

【Result-1】この10年間で携帯電話料金は「衣」(衣料品)と同じくらいの負担になっている

 まず「Q1. 各家庭で携帯電話通信料金はどれくらいの負担となっているのか?」という問いに対する結果です。以下のグラフ1とグラフ2から、家計に占める携帯電話通信料金の負担は、この10年間でじわじわと増え続け、衣食住の「衣」(衣料品)と同じ程度の支出金額となっていることが分かりました。

○世帯の平均年間収入と携帯電話通信料金の推移

 まず世帯の年間収入に対して、携帯電話通信料金がどれくらいの負担になっているのかを見てみます。以下のグラフ1は総世帯の平均年収と、携帯電話の通信料金支出の推移を示したものです。

世帯の平均年間収入と世帯一人当たり携帯電話通信料の推移を示したグラフです。

Graph1 世帯の平均年間収入と世帯一人当たり携帯電話通信料の推移

 総世帯の平均としての年間収入は2010年に521万円であったものが2019年には514万円になり、若干、減少傾向にあるように見えます。
 一方で、携帯電話通信料金は2010年に3.24万円であったものが2019年には4.5万円となり、じわじわと高くなっている傾向にあります。このことから収入に対する携帯電話通信料金の支出金額自体はわずかなものではありますが、家計に占める携帯電話通信料金の割合は僅かに大きくなり続けていると言えます。


○世帯の家計支出に占める携帯電話通信にかかる金額

 それでは、収入ではなく家計支出の中で携帯電話通信料金はどれくらいの金額になっているのかを見てみます。以下のグラフ2は2010年から2019年にかけての「衣」「食」「住」「通信」の家計支出の推移を示したものです。

家計における「衣」「食」「住」「通信」の年間支出額推移を示したグラフです。

Graph2 家計における「衣」「食」「住」「通信」の年間支出額推移

 2010年には32,355円であった携帯電話の通信料金は、2019年には44,985円となり、衣服代と同じくらいの金額に増加していることが確認できます。
 このことから、食住に加えて、生活必需品となった通信サービスは衣料品と同程度で家計のなかで支出を占めるようになったことが分かります。
 なお、この10年間で「食」(食料品)も値上がりを続けており、家計に占める負担割合が大きくなっているようです。こちらも驚きです。

 

【Result-2】家計支出における携帯電話通信料金は10年間で約4割ほど高くなっている

 続いて「Q2. 10年間で携帯電話通信料金にかかる支出がどのように推移しているのか?」という問いに対する結果です。ここでは、家計支出における携帯電話通信料金にかかる支出がどれくらい「高く」なっているのか、その推移を見てみます。

 各費目の支出金額のスケールが違っており、携帯電話の料金の推移が分かりにくいため、2010年を1とした相対値の変化を見たいと思います。
 以下のグラフ3は、2010年時点の各費目の支出金額を1とした場合の、各年における支出金額の相対値を示したものです。

2010年と比べた10年間での世帯一人あたり「衣」「食」「住」「通信」の支出規模の推移を示したグラフです

Graph3 2010年と比べた10年間での世帯一人あたり「衣」「食」「住」「通信」の支出規模の推移

 グラフを見てみると、携帯電話の通信料金は2010年を1とした場合、2019年では1.39となっており、約40%ほど高くなっていることが分かります。
 一方で、先ほど10年間でかなり負担増となっていることが確認できた「食料品」については、2019年で1.139と約14%ほど高くなっています。
 このことから、食料品の値上げ率よりも、携帯電話通信料金の方が値上がり率が大きいということが確認できます。

 

【Conclusion】家計の中でも携帯電話の通信料金は着実に「高く」なってきている

 以上の「Q1. 各家庭で携帯電話通信料金はどれくらいの負担となっているのか?」「Q2. 10年間で携帯電話通信料金にかかる支出がどのように推移しているのか? 」という問いに対する考察の結果から、我々の生活目線で見た家計の中でも携帯電話通信料金は「高く」なってきていることが分かりました。
 グラフ1とグラフ2でみたように、家計収入が徐々に減少する中であっても携帯電話通信料金は微増を続けており、家計に占める携帯電話料金はじわじわと高くなってきています。携帯電話通信料金にかかる家計支出は、この10年間で衣服代と同じくらいの規模の支出になっています。名実共に衣食住に並んで、家計における重要な費目となっていることがわかりました。
 また、グラフ3では、携帯電話の通信料金がこの10年間で約40%高くなっており、それは家計において大きな支出金額となっている「食」食料品よりも大きい値上がり率であることがわかりました。
 このことから、我々の生活目線で見た家計の中でも「衣食住+通信」として生活必需サービスである携帯電話の通信料金は、衣食住の並びの中でも特に値上げ幅が大きく、年々と着実に「高く」なってきており、家計の負担となりつつあると考えられます。

 

○「高い」「低い」は個々人の効用次第でもある

 しかし、「高い」か「安い」かどうかの判断は、通信サービスを享受し、その対価を支払っている個々人の価値判断に依存します。少々、経済学的な表現をすると、個々人が携帯通信サービスから受けている「効用」が、支払っている金額から妥当と考える効用よりも大きいか、小さいかで「高い」「安い」の判断は違ってきます。
 例えば、ほぼ待ち受けしかしていないライトユーザーのAさんが月々3000円払っていて「高い」と感じていても、電話やメール、動画に電子書籍等、各種サービスを利用するヘビーユーザーのBさんは月々8000円払っていても「妥当」と感じている可能性もあります。
 そのため、単純に家計の支出金額だけでは「高い」「安い」の判断することはできず、我が国の携帯電話通信サービスのどこでも高速通信サービスを利用できる質の高さ(LTE通信の人口カバー率の高さ)や、通信と併せて提供される多様なサービス(土管だけではない生活サービス)から得られる消費者の効用を考慮して判断する必要があります。

 

 この通信サービスの効用に関する考察は、経済学の費用・効用に関する分析モデルを用いた先行研究があるのではないかと思います。時間があるときに調べてみたいテーマです。

 

 

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