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ideagram

(心に浮かんだ)「考え」を書いたもの。

「春になると電車が混む」のは本当か。

 

15秒でわかる本稿のポイント

 

I.「春になると電車が混む」は本当か。

 

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(画像:いらすとや http://www.irasutoya.com/

1. はじめに

4月です。春です。
新年度になり、新社会人・新大学生として新たな生活を始められた方も多いのではないでしょうか。毎朝の通勤・通学電車、心身ともにツラいものですよね。
諸先輩方、新社会人、新大学生の不慣れな車内でのポジショニングや振る舞いを見て、チッとか舌打ちなんかしてませんよね?

この時期の電車に乗っていると感じてしまうこと。
それは

「いつもより人が多い」

ということ。

detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

 

「4月になると電車が混む」
そんな言説が巷にはあるようです。

確かに、4月には新社会人の集合研修や大学生の1限出席等、通勤・通学ラッシュ時間に人が集中するイベントが重なることが考えられます。
今回は、この「4月になると電車が混む」という言説について、果たして本当に正しいのか、検証してみたいと思います。

 

2. 調査手法

 今回は、国土交通省が鉄道、軌道及び索道(ロープウェー等)の輸送実態を明らかにするために実施している『鉄道輸送統計調査』をデータソースとして、平成27年度のJRと民間鉄道事業者(以下「民鉄」という。)による旅客数量の月別推移を調査します。
 通勤・通学を目的とした乗客を対象とし、定期利用の旅客について調査しました。

(参考)内容紹介<鉄道輸送統計調査>

 

II. 調査結果と考察

1.「春高冬低」の定期利用客

調査結果を以下に示します。

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 グラフ上には、月別の旅客数量の実値を棒グラフで示しています。
また、線グラフは平成27年度の平均旅客数量(11,655十万人)を1とした際の、月別の旅客数量(定期利用客の数)を相対的に指数化したものを示しています。

 棒グラフを見ると、一年で一番定期利用客が多い月は5月(12億3720万人)であり、一方、一番少ないのは2月(10億7860万人)となっています。
8月や12月に見られる利用客の減少は、大型連休や年末休みが要因として考えられ、2月から3月では大学の春休みが要因として考えられるでしょう。

 

 今回の関心である4月については、11億7480万人で年間8番目の多さになっています。旅客数量の年平均は、11億6550万人(11,655十万人)となっており、だいたい4月の旅客数量が平均的と言えます。4月の利用客の多さは、指数1.01となっているため、平均からすると1%程度多いようです。

 つまり、通勤・通学利用客数を一年を通じて見てみると、4月の利用者数が突出して多いわけではなく、一番利用客が多い5月(指数1.06)をピークとして、2月(指数0.93)が谷となることが確認されます。一年を通じた、定期利用客数の推移は若干の春高冬低」の傾向にあると言えるでしょう。

 

2. なぜ、混むと感じてしまうのか。

 さて、上に示したように、一年の定期利用客数の推移は4月で少し増加するものの、突出して多いわけではなく、むしろ5月の方が大きいことが分かります。
 それでは、なぜ我々は「4月になると電車が混む」と感じるのでしょうか。
 それは、行動経済学でいう「順序効果」と「代表性ヒューリスティックの2つの認知バイアスがあるのではないでしょうか。

(1) 1つ目のバイアス:順序効果

 1つ目のバイアスは「混む」という印象を生み出す「順序効果」というバイアスです。順序効果とは、ある人に与える情報や選択肢の順番によって、同一の物事であっても受ける印象や判断が変わることを言います。
 人は物事を判断や評価する際に、他の何かと比較する傾向があると考えられており、最初に与えられた情報や経験を一つの基準として捉えてしまいます。
 たとえば、チョコレートとイチゴを食べることを想像してみてください。(A)イチゴ→チョコレートの順番で食べた場合と、(B)チョコレート→イチゴの順番で食べた場合とでは、イチゴの甘さに対する印象が変わり、(A)の方が甘いと判断するのではないでしょうか。これが順序効果のバイアスです。

 

 さて、通勤・通学電車の利用客の話に戻ります。「4月になると電車が混む」という言説、一年を通じてみると4月の利用客はそれほど多いわけではありません
 しかし、利用客数の谷である2月、3月の利用客数と比較して判断した場合はどうでしょうか。2月、3月、4月と連続する月の中で、2月と3月の利用客が減っている(体感ではないかもしれませんが。)一方で、4月の利用客が増加しているため、我々は「増えた」という印象だけを強く受け、「4月は乗客が多い」という錯覚に陥っているのだと考えます。

 

(2) 2つ目のバイアス:代表性ヒューリスティック

 2つ目のバイアスは「春になると混む」という印象を生み出す、「代表性ヒューリスティック」というバイアスです。代表性ヒューリスティックとは、意思決定や判断を行う際に、ある物事の典型的だと思われる特徴を必要以上に重視し、判断に利用してしまうことを言います。(心理学的用語らしいです。)
例としては「リンダ問題」というのがあります。

(参考)リンダ問題|連言錯誤 | 株式投資に役立つ心理学

 

 恐らく、新年度が始まった時の電車にのる時、いつも以上に(といっても一年で見ればちょっと多いくらいの)、混んでいる車内の様子を見て「なぜ混んでいるのか」という疑問を皆さんは持つでしょう。この「なぜ」に対して、我々は“新社会人”や“学生”という春先に特徴的な人々の出現を必要以上に重視し、混雑に対する最もらしい要因として判断してしまっているのではないでしょうか。
 いわば、春や新年度から想起される「新社会人」「新学期の学生」という固定観念により、【春になった】→(だから)→【新社会人や学生が増える】→(だから)→【電車が混む】という理論式を頭の中で描いているのにすぎないのではないでしょうか。

 

III. まとめ

 これまで「春になると電車が混む」という言説について、本稿の中で述べてきたことを簡単にまとめます。

 まず、統計データから示されるように、4月になると電車が混むということは、一年を通じてみると必ずしも正しいとは言えません。利用客数が減る2月と3月に比べれば、確かに4月の利用客数は増加しますが、年平均と比べればわずかに1%程度の増加にすぎません。

 また、この言説には2つの認知バイアスがあると考えられます。1つ目は、利用客が減少する2月と3月と比較した際に、連続する月である4月の利用客の増加に過剰に反応してしまう「順序効果」であり、2つ目は春先に特徴的な新社会人や新学期の学生の出現を、混雑の要因として捉える代表性ヒューリスティック」です。

 これら2つの認知バイアスにより、数値上は突出して利用客が多いわけではない4月の電車の混雑について、「春になると電車が混む」という不合理な判断を行なっているのに過ぎず、この言説は必ずしも正しいとは言えないと考えられます。

(以上)