JiNS(ジンズ)のPCメガネはなぜスゴいのか
JiNSのPCメガネとは
以下のようなメガネです。
PCメガネが、JiNSの成長を支えている
このグラフはJiNSの売上高とPCメガネの累積販売本数を示しています。売上高は2011年度145億円だったものが、2013年度365億円と2倍以上に伸長していることが分かります。JiNSはメガネ屋さんですからPCメガネ以外のフツーのメガネも取り扱っていますので、ここでは販売本数をPCメガネと非PCメガネという指標に分けました。この2つの数を合わせた数字がメガネ商品の総販売本数となります。
2011年度におけるフツーのメガネ(視力矯正用・サングラスなど)とPCメガネを含めたメガネ商品の累積販売本数は230万本でありますが、2013年度までに320万本の販売を増やし、累積550万本に達しています。そして2011年度から2013年度までにかけて増加したメガネ320万本のうち、PCメガネが占めている本数は250万本となっています。その割合としては約78%です。
このグラフからは売上高とPCメガネの販売本数の伸びが比例していることが読み取れます。つまり、JiNSが年々売上高を大きくしていることと、PCメガネ販売本数が順調に伸びていることの両者には一定の関係性があると言えるでしょう。
Zoffと比べてみた
もちろんJiNSの成長の柱はPCメガネだけではありません。その価格の安さやフレームのデザインの良さなどが“ファッションとしてのメガネ”という考え方を生み出し、メガネを作ることのハードルを下げたこともその柱のひとつでしょう。1人で何本も持つことを当たり前にしたことでメガネの販売数を増やしているかもしれません。
ちなみに、JiNSのライバル・Zoff(ゾフ)との売上高比較を行ったのが下のグラフです。Zoffは、JiNSと同じように4000円〜5000円台からの安くてかっこいい・かわいいメガネやPCメガネのような機能性メガネを売り出しています。価格帯や対象ターゲットもJiNSと同じような層かなと思って、引き合いに出してみました。
Zoffは企業サイト上で決算資料が手に入れることができなかったので、マイナビ2016の企業データを参考にしました。(就活サイトがこんな時に役に立つとは!)
これを見ると、2009年度において同程度の売上規模があった両社ですが、JiNSが年々とZoffとの差を大きくしていることが分かります。両社ともに同じような商品を展開しているだけに、この差の要因が気になるところです。
JiNSのPCメガネはなぜ凄いのか(1)
さて、JiNSのPCメガネが成長を支えていることを見たところで「JiNSのPCメガネはなぜ凄いのか」 について考えていきたいと思います。
結論から言うと、PCメガネがすごい理由は「本来メガネを必要としていない人がメガネを買うようになった」からです。
本来「メガネ」といったら、目の良くない人が普通に生活できるようにするための視力矯正の道具でした。松葉づえや車いすと同じようなものです。つまり、視力の悪くない人には関係のない商品でした。
しかし、PCメガネはブルーライトという目に見えない敵から目や身体を保護するため、ということで普段はメガネをかけていない人たちまでターゲットとすることに成功しました。メガネもコンタクトも必要としていない人や、普段はコンタクトレンズを着用していてメガネを必要としない人は多くいます。ただ、現代の生活(特にワークシーン)においてパソコン画面を目にしないことは少ないでしょう。
メガネをかける必要はないが、パソコンは使っている。パソコンから出る青色の光は目や身体に悪いらしい。PCメガネが光を半減してくれるなら買ってもよいかな、ということで、本来なら“メガネを必要としていない”人にメガネを売ることに成功しています。
JinsのPCメガネはなぜ凄いのか(2)
また、PCメガネの売り方が特徴的です。JiNSのお店に行ってみると、売り場の一角にパッケージに入ったメガネがずらっと陳列されて並んでいるのが目に入ります。
本来、メガネは視力測定をしてから使う人の視力や目の状態に合わせて作ります。つまりメガネはユーザーに合わせて仕立てられるオーダーメイドの商品です。そのため、レンズに度を入れる加工のために受取までに時間や日数がかかったりしていました(店舗内加工で1時間程度で即日受取することは可能です)。
パッケージに入ったPCメガネであれば、視力測定の必要もなく店頭に来たその場で買って帰ることが可能です。PCメガネは仕立て商品であったメガネを、既製品(レディ・メイド)のパッケージ商品として販売することで、潜在的なユーザーにとっても買いやすくしていると言えるのではないでしょうか。
JINS PCはコトづくりのイノベーション
つまり、PCメガネは「メガネは目が良くない人たちが“作るもの”」というわれわれの常識を覆し「メガネは誰しもが“買えるもの”」という考えにした“イノベーション”を生み出したと言えます。
このイノベーションは、メガネの商品や技術自体の革新によってもたらされたものではありません。ブルーライトカットのコーティング技術というものがあるようですが、PCメガネ自体は元々から存在していたカラーレンズのメガネです。四次元ポケットから出てきた夢の道具というワケでは決してないのです。
特別な技術が使われているわけではないPCメガネがもたらしたイノベーション、それは私たちのメガネの使いみち−メガネをどう使うか−という考えを変えたことにあります。“視力矯正のための道具”というメガネの常識に対して、“目を守るための道具”という新たなメガネの使い方を提案することで私たちの持つメガネに対するイメージを革新し、メガネを必要としていない人たちにメガネを必要とさせました。PCメガネという存在は、道具としてのメガネのあり方を変え、私たちのワークシーン・生活に変革をもたらしたのです。
これはモノづくりではなく、コトづくりから生まれた一つのイノベーションです。イノベーションが未だ「技術革新」と訳される現在において、JiNSPCのイノベーションはコトづくりの良い見本だと言えるのではないでしょうか。
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