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(心に浮かんだ)「考え」を書いたもの。

【検討】三種の神器・八咫鏡は何製だったのか?

 友人がフェイスブックに投稿した記事の中に、面白い問題があったのでやってみました。

 それは、いわゆる「三種の神器」と呼ばれる神具の中のひとつ「八咫鏡(やたのかがみ)」の素材を考察するというもの。神々の歴史を紐とくロマン。これは面白そうだと思って、金属の融点と蒸発温度の差から八咫鏡の素材が何だったのか、少し考えてみました。

 

八咫鏡とは?

 Wikipediaによる(八咫鏡 - Wikipedia)と、こちらの八咫鏡は天徳4年(960年)、天元3年(980年)、寛弘2年(1005年)の三度にわたる御所・内裏の火災によって焼損し原型を留めない状態に。その後、源平合戦の折に安徳天皇と共に壇ノ浦の海に沈み、それを源義経八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)とともに回収したものが現在、宮中に保存されている、とのことです。

 そして、今回の知人の投稿によると、11世紀の貴族が書いた日記(藤原資房『春記』)の中に、内裏の焼け跡から「玉のごとき金二粒」が発見された、という記述があったということ。どうやら、これは寛弘2年の火事を受けた後の八咫鏡の状態について記しています。こちらのサイトによると(2014/11/19参照)、寛弘2年(1005年)の火事は内裏が焼失するほどの大規模なものであったそうです。

 

鏡は火事で焼損した

 ここでの考えるヒントは、内裏が焼け落ちるほどの大火災に見舞われた八咫鏡が「玉のごとき金二粒」に成り果てたということ。木造家屋が焼け落ちる程度の火災においては、温度が最大1200℃に達するといわれていますが、日記の記述では焼け跡に「玉のごとき金二粒」が残ったとあるので、八咫鏡の金属素材は「溶融したが蒸発はしていない」と言えます。

 

 つまり、八咫鏡に使用された素材は、木造家屋火災の最大到達温度である1200℃の温度で焼かれて、

  1. 溶融し液体になること
  2. 気化せずに残ること

の二つの条件に合致した素材ということになります。

 これを言い換えれば、銅鏡に含まれる金属素材を考えるには、“1200℃以下の温度で溶け、1200℃以上の温度で気化する”性質を持つ金属を探せばよいのです。また「玉二粒」が生じた要因は、八咫鏡の素材が溶融温度の異なる2種以上の金属の合金であったためではないでしょうか。

 

金属の特徴について調べてみた 

 以上の考察を踏まえて、当時の鏡鋳造に使えそうな主要な金属素材(銀・金・銅・鉄・鉛・白金・錫・亜鉛)について、融点と蒸発温度を調べて以下の表にまとめてみました。なお、内裏を襲った火災が最大到達温度である1200℃に達したと仮定しています。

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≪表:各主要金属素材の融点・蒸発温度≫

 

 それぞれの素材の融点と蒸発温度についてみてみると、鉄および白銀は1200℃以下の温度で熱されたとしても溶けないため「玉」にならず、当てはまらないと考えられます。また、銀・鉛・亜鉛については1200℃以下の温度で焼くと蒸発してしまい、「金二粒」が残らないため、これらの金属についても当てはまらないといえるでしょう。

 金・銅は1200℃で溶融し、かつ蒸発温度が1200℃より上であるため「玉」になり「金二粒」も焼け残るはずです。錫について1200℃で「玉」にはなりますが、蒸発温度が1200℃以下であり蒸発する可能性があります。しかし寛弘2年の実際に内裏を襲った火災の規模と温度が不明でありますし、また火災温度は短時間(5分程度)で逓減してしまうので、錫の場合は全部が蒸発せずに一部が残った可能性があります。そのため錫を検討から排除するのには慎重になったほうがよいでしょう。

 

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(図:火災時の室内平均温度の推移)

図の出典:

吉野石膏 | 「せっこう」基礎知識 | 耐火・遮音・耐力・吸音 | なぜ燃えない?「耐火性」 | なぜ耐火が必要か?

 

調べて分かったこと 

 以上、融点と蒸発温度について各金属素材の特徴を見てきましたが、1200℃の火災温度の中においても(1)溶融し液体になること(2)気化せずに残ること、という2つの条件をクリアし候補に残った金属素材は金・銅・錫の3種類となります。加えて「玉二粒」の条件を考慮すると、金属玉が二つ生まれるのは、先に指摘した通り、この八咫鏡が融点の異なる2種の金属素材の合金で作られていたから、と考えられます。

 候補に残された3種の金属の融点については、それぞれ金(融点1063℃)・銅(融点1083℃)・錫(融点232℃)であるため「金二粒」のうちの一粒は、融点が低く3種類のうち最も先に液体となる【錫】であると考えられるのではないでしょうか。もう一方の粒は【金】もしくは【銅】の2種の金属のいずれかです。

 つまり結論として、八咫鏡に使用されていた金属素材は、【錫】と、【金】もしくは【銅】と考えるのは妥当ではないでしょうか。金か銅か、というこの2種の特定については「春記」の記述からは出来ません。
 しかし【錫】+【金】(赤銅)、【錫】+【銅】(青銅)、【金】+【銅】のそれぞれの合金には、色の特徴がありますので、もし他に八咫鏡の色について記述している文献などがあれば、より正確な答えに近づくことができると考えます。

 

なお、Wikipediaには(八咫鏡 - Wikipedia

「『古事記』では、高天原八百万の神々が天の安河に集まって、川上の堅石(かたしは)を金敷にして、金山の鉄を用いて作らせたと記されてい」るとの情報がありました。つまり古事記の記述としては、八咫鏡の金属素材は「鉄(くろがね)」だったというもので、もしかしたらこの記事はまったくの検討はずれで間違っているものなのかもしれません。ですが、もし本当に古事記の記述が正しく八咫鏡が鉄(Fe)から作られていたとすれば、八咫鏡が火災で灰燼に帰するまで焼損する可能性は低いのではないでしょうか。